6/14/2011

ひきこもりの外出

盲点だった。
この日20代を終え30代という違った世代に移ってしまったのである。当日に何件かアルバイトの面接に行ったものの30歳というのは雇う年としても節目にもなるらしく、また職歴のない自分にとっては働く事に対してまた大きな荷物を背負ってしまった事になる。この日3件目に電話をかけた際には年齢を聞いただけで声色が厳しくなり断られてしまった。
「昨日行っておけば…」
そんな頭に浮かんだ後悔を思わず口に出してしまっていた。それ程に此方には意志があるのにそれが相手に伝わらず門前払いを食むことに苛立ちを覚え、またその中でも焦りが募る。このままではいけない。しかし打開策はその頭に浮かばず地団駄踏むしか無かった。
そうして気を紛らわせたようと目の前で熱を放つパソコンに向き直りキーボードを叩いた。そしてニュースサイトを開き、今日のトピックスを確認する。ニュースはこれまで巨大掲示板で毎日のように確認していたため目新しい情報は少ないが、その中でも一際気を引く記事があった。
「名古屋市内で建物半壊、1人軽傷」
ここ一ヶ月の間で特に目立つようになった建物が突然崩れる現象。崩れるとは言えども不審な点が多く、何か見えない巨大な力で抉られたような破壊口に、崩れたものの中には築2年のものもあった。強度はしっかりして崩壊の要素など見つからない建物が突然…というのは人為的なものを感じずにはいられなかった。そこでふとした考えが浮かんだ。
「気晴らしに行ってみるか」
既に今日は一度外出しているが男は玄関に向かった。
名古屋市内にある男の家は今回の事故現場からは歩いて5分のというところに位置していた。一階部分に何重にもビニールテープが貼られたその建物は築5年で、今までの例に洩れず建物の上部の数ヶ所だけが砲弾を受けたかのように確かに抉り取られていた。男は空の青が目に入らないくらいに唖然として、上を見上げていた。
すると不意に肩を叩かれた。男はびくりと肩を上げ競競として振り返るとそこに帽子を浅く被り、暑そうな制服を着た男が立っていた。警察官だ。それは引きこもりとしては例え何をしていなくとも懐疑的に、高圧的に向かってくる恐怖の対象でしかなかった。そして警察官は
「ちょっといいかな」
語尾に疑問符を付けるのを憚るような口調でこちらの領域に問答無用で、土足で踏み込んできた。少なくとも男にはそう感じられた。しかし、男は窮するどころか条件反射のように財布を取り出していた。

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