5/19/2011

夢110519

目の前には青があった。
空、快晴と定義されたその空は明るく、そこにどこまででも落ちてゆけるような気がした。

寝ている、寝転んでいる、芝生の上だ。そして少しだけ頭がヒリヒリと痛み、外傷だと僕に伝えた。左手に何かを感じて少し驚いたように飛び上がった。焦点が思っていたよりも早くそれに合って少し驚き間もなく僕の双眼には紺色の革製品が鮮明に映った。右に黒目を動かすと白い球体が、顔を上げるよう正面を見ると統一された衣服を纏った人が数人駆け寄ってきていた。
「大丈夫か?」
そのうちの一人、どこかで見覚えのある少年が声をかけてきた。それに僕はすこし戸惑いつつ
「多分。」
そう発した。
…これも声を出す刹那に思ったものよりも高い声だった。喉が震える感覚があまり感じ取れなくなっているような、どこか澄んだ声だった。
そう答えた僕は自分を囲むように集まった人を見渡し、呟いた。
「誰?」

地面に座った体制で見上げる僕を囲うように少年たちが立っている。少年たちは僕を知っている、僕はこの少年たちを知っているような気がする。
先程の少年が「は?」と反応をする。…だからお前らに見覚えはあるんだけど誰だっけ?と返すと少し頬を引きつらせて少年たちは思い思いに僕に話しかけ始める。僕はこの少年たちを知っている、知っている、知っている…。頭の中の何かを手繰り寄せようとしたが、じぃんと響く外傷と暑さとこの混乱とで僕は何がなんだかわからなかった。
「おい!◯◯!分かるか!」
ぼんやりと酩酊したような僕の頭の靄が晴れるような低い声が僕を突いた。
そう、僕の名前、氏名、◯◯。性別年齢住所郵便番号電話番号…ボトルネックが排斥されたかのように頭の中に言葉が殺到して、意識がまた朦朧としはじめて、僕は思い出した。
2011年の冬を。

次に目を開けた時に先ず目に飛び込んできたは自分の部屋の天井だった。ただどこかが違う、記憶より忌々しく懐かしい空気を孕んでいる。
その場に座り込んで思慮する。
ここは自分の家であり自分の部屋、…兼弟の部屋。2004年から2008年まで確かに生活してきたその部屋。それは分かる。
しかし今は2011年だ。何年かも前に家主に返還したはずのこの家になぜ今居るというのだ。僕は部屋に鎮座する自分のものであろう机の横にカレンダーを見いだして近寄ろうとした。そして右足を伸ばした瞬間に強烈な違和感を覚えた。右側によろめきそうになり踏ん張ろうとするが力がうまく込められない。そのまま膝がかくんと折れてその場に崩れ落ちるようにへたり込んだ。しかしその時にカレンダーを見つめ直し確信した。いや確信してしまったと言うべきだろう。
今は2006年、僕は未来の記憶を保持した状態でこの場にいる。
目の違和感は視力が僕の未来の状態よりかなり良いと言う事、体の違和感は僕の未来の状態と比較して大分小さいという事、そしてあの少年たちは未来の記憶での2006年当時に僕が入っていた少年野球チームのメンバー達であるという事。全て合点がいった。
そして次に僕の思考は未来の最後の記憶へと移る。兼をまたいだ高校に無理矢理入学、多数のコンプレックスから逃げるように大口を叩き上京を目指し失敗。そのまま合格発表の帰り、駅のプラットフォームから快速列車に対して投身。ペテン師の目も当てられないような粗末な人生が走馬灯のように頭に湧き出して、不意に口から漏れた金切り声と同時にその場に吐瀉した。その喉に引っかかり器官を焼くような酸を塗りたくった吐瀉物の欠片を吐き出そうと一心に一心不乱に咳込んだ。ドタバタと階段を駆ける音も聞こえないほど僕は錯乱していたのだろう。気づいた時には父親に羽交い締めにされていた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。まだ鼻の奥に、その鼻をつくような臭いを放つものが残ってだろうが、その酸味をかき消すような意思を僕は意識の基底に刻んだ。「変えてやる」と。

世界を変える。
それは生半可なものではない。
バタフライエフェクトなんて想像もつかないし、そんな大きな点を変えるつもりも毛頭ない。
自分とその周りだけでいい。自分を取り巻く世界の"ディスタンス・ポイント"には既に目星をつけている。引越し、受験、そしてまた受験だ。積み重ねもあるだろうが、大まかにはこれだけだ。これだけ変えれば満足できるだろう。

つづく

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